思い出の数とは反比例。
高校に入り、友だちに誘われて行った小さなライブハウス。
そこであるバンドのボーカル、しゅんさんに一目惚れした。
当時、物販で売っていたのはCDではなくデモテープ。
しゅんさんの歌うメロディーに、歌詞に、世界観に引き込まれてしまった私はすぐさまデモテープを買った。
テープが擦り切れる程、毎日何度も聴いていた。
テープになっていない音源の歌詞が知りたくて、テレコで録音したライブ音源を巻き戻して聴いてを繰り返した。
ただのファンだった私。
毎回ライブの後のアンケートにはこれでもかと感想をズラズラ書く。
何度も足を運んだライブハウス。
もうここに来るのも何度目か。
バンドメンバーさんからライブ後の打ち上げに誘われた。
皆で過ごす夜の公園。
ただのファンから一歩前進。
何かのきっかけで教えてもらった電話番号。
夜、電話の子機を抱えて自宅の車の中でドキドキしながら番号を押した。
夏にはしゅんさんからひまわりのポストカードで暑中見舞いが届いた。
今もひまわりは大好きな花。
ライブで使ったハーモニカをもらったあの日。
両手で抱えて大事に持って帰った。
ある休日に、しゅんさんに誘われて繁華街に繰り出し
次のライブで着る衣装を一緒に選んだ。
バンドを辞めて他のひととユニットを組むかどうか悩んでると打ち明けられた日。
もうしゅんさんの中で答えは出ていたようで、
私はただ相槌をうちながら、今自分が置かれている状況を不謹慎にも少し喜んだりして。
そのユニットも解散し、いつの間にか連絡も取らなくなった。
今はどこかで元気に働いているらしい。
ここには書ききれない思い出がまだまだある。
一方で、
私とりゅーさんは小中学校の同級生。
小学校の高学年から中学校卒業まで、フラレた後も思い続けた。
気づいたら目で追っていた。
時々交わすなんでもない会話。
近くにりゅーさんがいると背中でも意識しながら友だちとおしゃべり。
それくらいしか思い出がない。
フラレた後はりゅーさんは私を避けていたし、
私も話せるほど勇気がなかった。
思っていた期間は同じくらいだけど、
思い出の数だけで言えば断然しゅんさんのが多い。
なのに。
今しゅんさんに会いたいかと聞かれたら、
元気でいてくれたらそれでいいと思える。
語れるほど多くもない思い出しかないのに。
なんでだろうな。
二度目の
春が来た。
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