三日月、笑って

婚外恋愛、今、思うこと。

届かないから綺麗なの?

月がキレイだよ。



会えなかったあの日

りゅーさんに送ったその言葉は

ラブレター。


りゅーさんはきっと

私のことをただの月好きなひとだと思ってる。

まぁいっか。


会えたら

夏目漱石だよ。

って言おうかと思ったけどやめた。


このままただの月好きなひとでいよう。





「手、つないでもいい?」


「いいよ。」



外はずいぶん肌寒くなって

りゅーさんの手も冷たい。



思い出した。

再会したあの日、

初めてつないだりゅーさんの手は

やっぱり冷たかった。


でも、りゅーさんを目の前にして

まだ緊張してる私には

その冷たさは心地よくて。


「毎回、会うときはすっごく緊張するんだよ。今日も吐きそうな程緊張した」


そういう私に


「俺も緊張するよ」


って。


じゃぁ緊張をほぐすための今回の一問一答。

【幸せを感じる瞬間は?】


「えー??

なんだろうー?

そう言われるとこのところ、そういう感覚が薄くなってるなー。」


と悩みに悩むりゅーさん。

なかなか答えを出せずに

k-coは?

と反対に振られてしまった。


「うーん、いっぱいあるけど

ひとりでお風呂に入ってね、

洗顔の泡をたっぷりモコモコにして洗う時!

幸せだーって思うなぁ。」


クスクス笑うりゅーさん。

割と本気の答えなんだけどな。


私が半分腹筋してる体勢で話してたものだから

えいって押されてゴロンと横になった。


ぎゅって抱きしめられた時


「もういっこあった、幸せな瞬間。」


「そうだね。」


ってまたクスクス笑われた。

これも本気なんだからね。


ネクタイを緩めようとしていたから

「ねぇ、私が取ってみてもいい?」

って初めてしてみたことは

あまりにも刺激的で

私にはハードルが高すぎたと少し後悔するほど官能的だった。


持って帰りたい衝動に駆られながらも

畳んで大切に置いた。

今だけ、私のバッグの上にいてね。





帰り支度をしていると

鏡の前で今度はネクタイをつけるところだったので

横から観察。


「いくつかやり方があるんだよね?」

と聞くと

「俺はね、ここをこうするんだよねー」

と実況つきの実演。


なんだかお見送りをするようで新鮮。


ピシッとネクタイをしたりゅーさん。

「うん、かっこいい」

と心の声がダダ漏れると

「ありがとう」

って笑うりゅーさんは可愛い。


ハンガーにかけていたジャケットを私に着せてくれた。

りゅーさんは自分で取って自分で着ようとするので


「待って!私にもやらせて!」


と半ば強引にりゅーさんにジャケットを着せてあげる。

お見送り、その2。


「忘れ物はない?」

と聞かれたので

隅から隅まで見渡した後、目の前に立って

「忘れ物あった!」

と言うと

軽くちゅってしてくれた。


お見送りコンプリート。







今日もありがとう。またね。


こちらこそありがとう。またね。







あ、

ひとつ欲しいものあったんだ。

またわすれちゃった。


それも また、ね。

心のこもった花束を。

その昔、苦楽を共にした仲間に会ってきた。

私、かこちゃん、東くん、下野くん。

皆、同世代で私とかこちゃんは子供も連れて。

男子二人は独身ズ。

いいおじさんたち、ひーひー言いながら子供たちと遊んでくれました。



東くんは私の一つ下。

自分にも他人にも厳しくて、

私もよく怒られていた。

怖かったし、ムカつくこともあったけど、

東くんだったからあれだけの仲間が集まって

繋がってやっていけてたんだ。


色んな所に皆で行ったりもした。

色んな話もした。

若い男子のおバカな話を、

若い女子たちは

「えー、サイテー!」

なんて言いながら、

それでも皆で同じ方向を見ながら追いかけたあの頃。


当時から私生活は浮わついていた男子たち。

それでもここにきて東くんが結婚を前提に付き合っている彼女が出来たらしい。


遊んだ日の夜。

お礼のラインから東くんの恋愛相談にのる。

ラインの口調にちょっとした違和感を覚えた。

あれ?こんなに絵文字もスタンプも使わなかったよね?

心なしか口調も可愛らしい。

ははーん、彼女の影響だな。

女には振り回されないと豪語していた東くんが

あんなに怖かったのに、なんだか今は可愛く見えて笑いが止まらなくなる。


東くんは

k-coの前ではかっこよくいたかった

なーんて言ってたけど、

私は今の東くんも好き。


好きと言っても恋愛感情なんてまるでないし

色んなことを知ってるからこそ

仲間としてしか見られない。

だからなんでも言える。



私は昔から誉められるのが苦手だった。

何か裏があるんじゃないかと疑ってしまう。

特に東くんから誉められるのには恐怖すら覚えていた。

なのに酔うと何故か私のことを誉めてくれる。


この日も下野くんと呑んだ帰り道、

彼女の元へと向かうほろ酔いの東くん。

彼女のことをあれやこれやと聞きながら

昔話にも花が咲く。


私がふざけて

どうだ、いい女だろー!

と打つと

k-coは昔からいい女だよ

なんて返してくる。


私が特に東くんから誉められることを

苦手なの知っていて、絶対わざとだ。


僕の人生の中でもセンスと気遣いは抜群や!


少しずつ、自分の中の固く閉ざした部分が解けていく。


仲間内の集まりのお誘いも

正直ちょっと面倒で返事すら返さなかった私に

そんなもったいない言葉をくれるなんて。


仕事と育児に毎日追われて

自分に戻る瞬間なんて

ここのところほとんどなかった。



強がりk-coは変わらんなぁ

僕らはいつでもk-coの味方やからね

いつでも




なんでか分からないけど涙が出た。


自分が認められたことへの嬉しさなのか

全部をさらけ出すことが出来ない罪悪感からなのか。



ありがとう。

と、スタンプを送る。


東くんからは

びっくりするほど可愛いスタンプが返ってきた。


久しぶりに

あったかい気持ちで眠ることができた夜の出来事。



****** 春の回想録 ********

切り取った一瞬

会えるかもしれない。


朝イチのりゅーさんからのメールで

慌てて支度をする。


ほんの少しだけの外出。


会えたとしても、きっと本当に短い時間なんだろう。

それは短い文面からでも分かる。


それでも

ほんの一瞬だけでも顔が見たい。


5日前、もしかしたら会えていたかも。

そんな風なやりとりがあったもんだから

もう会いたくて会いたくてウズウズしてる。


きっとりゅーさんも同じ。

だから例えほんの短い時間でも私に知らせてくれたんだって。


会えるのは仕事終わりなのに

朝から心臓が痛くて

そわそわする。



終業と同時にタイムカードを切る。

急いであの街に向かう。

信号待ちでスマホを確認すると

いつもと同じような場所にいるってメールが来てた。


ようやく着いていつもの場所あたりを見回す。

んー、どこだろう?

時間ないのに。

こんなところで迷ってるなんてもったいない。


キョロキョロと辺りを見回しながら探していると

少し前を歩くりゅーさんらしきひとを発見する。

あの鞄、

あの後ろ姿、

あの歩き方、


見つけた。


どうしよう、顔がとけそうな位嬉しい。

シャンとしないと。

小走りで駆け寄ると

何かを察知したように

りゅーさんが振り向く。


あ、またいつものポーカーフェイスだ。

でももう慣れっこだもんね。

そういえばこの表情が怖いって今日は思わないなぁ。

それってもしかして私の気持ちにも関係してるのかな。

もしそうなら嬉しいかも。

だって5ヶ月も会えなくても

あんまり揺るがなかったってことだから。



話したいことリストは上書きされまくって

本人を目の前にするとそのほとんどが頭から飛んじゃって

それでも、会わなかった期間に起こった出来事を矢継ぎ早に話す。


前回会ったのは○月○日だよ

とか、

いつもの自転車置き場の番号がりゅーさんの誕生日だったからラッキーだった、なんて話を


りゅーさんはよく覚えてるね、すごいなぁって感心したように、ちょっと呆れたように言った。

それだけ自分の中にりゅーさんの存在があるんだって、その時改めて気づいた。


話したいことはいっぱいなのに

うまく言葉にならなくて

その度にりゅーさんの顔を見る。

話さなくても、こんな風に顔が見られるなんて、なんて贅沢な時間なんだろう。



♦️「りゅーさんのこの夏一番の思い出は?」

♠️「えー??なんだろう?んーー、じゃぁk-coに会えたこと?」

♦️「じゃぁって何よー!!」


目が合うとお互いふふって笑う。



♦️「あ!名前。やっと呼んでくれた。ね、もう一回呼んで?」

♠️「k-co、なかなか会えなくてごめんね」


ちょっとちょっと!

もう少し甘い言葉を期待してたのにっ!

よりによってごめんねって!

しかもそんなに満面の笑みで言わないでよー!

可愛すぎるじゃないか。


容姿や振る舞いは時が経って変わっても

笑顔はあの頃のまんま。

くしゃって笑う顔があの頃も大好きだったな。



りゅーさんのほっぺたに手をあてると

あったかさが

優しさが

愛しさが溢れてくる。


りゅーさんに触れると

からだの内側がきゅーってなる。


私はこれからもきっと

りゅーさんに恋し続ける。


時間作ってくれて

待っててくれて

ありがとう。


走って仕事に戻るりゅーさんを見送って

ふぅ、とひといき。

上を見上げると

道沿いの街頭に一斉に光が点った。


毎日ある光景だろうに、

その瞬間に出合えたこと。


これからも

そんな風に過ごしていけたなら。